研究・論考 / 新著作権構想

知識は、解放されるべきだ。
対価も、届くべきだ。

誰もが自由に使えて、意識せずに作者に報酬が届く──ブロックチェーンと量子耐性暗号が実現する、デジタル時代の新しい知的財産保護モデル。

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第一節

問題の核心──創造者は、なぜ報われないのか

書籍が書かれた瞬間に、著作権は発生する。絵が描かれた瞬間に、映像が撮られた瞬間に。日本が採用する「無方式主義」は、登録不要でその権利を認める。

だが現実はどうか。

その権利を「誰が、いつ、何を創ったか」と証明する手段がない。デジタル空間ではコンテンツが瞬時に複製・流通し、創造者への対価還元は著作権管理団体を通じた複雑な手続きに依存する。絶版・品切れ作品の著作者遺族には、そもそも対価が届かない。外国著作物への対応は、さらに困難だ。

規制や禁止では、知識の流通は止められない。
ならば逆転の発想を採る。
使われるほど、創造者が潤う仕組みを作ればいい。

この提言は、その仕組みの設計図だ。ブロックチェーン技術とスマートコントラクトを組み合わせることで、「誰もが自由に使えて、意識せずに作者に対価が届く」世界を技術的に実現できる。

第二節

三本柱──新著作権保護インフラの設計

第一の柱
デジタル指紋による
真正性保証
作品登録時にSHA-256ハッシュ値をブロックチェーンに刻む。「誰が、いつ、何を創ったか」が改ざん不可能な形で永続記録される。書籍・音楽・画像・映像、あらゆる知的創造物に適用可能。
第二の柱
スマートコントラクトによる
自動対価還元
使用・複製のたびに自動的に著作者へ対価が流れる。仲介業者・著作権管理団体を介さず、コードが契約を自動執行する。マイクロペイメントにより「使われるほど創造者が潤う」設計を実現。
第三の柱
ハイブリッド設計による
個人情報保護との両立
ブロックチェーン上にはハッシュ値のみを記録。氏名・住所等の個人情報は暗号化データベース(オフチェーン)に保管。「忘れられる権利」と「改ざん不可性」を同時に実現する。

価格決定の逆転発想

著作物の価値を事前に決めることは不可能に近い。無名の写真が突然バイラルになることもある。だからこそ、事前に価格をつけるのではなく「使われた量が価格を決める」という設計が有効だ。

誰も使わなければゼロ。億回使われれば高額になる。作者は価格を決めなくていい。使われた実績が、そのまま報酬になる。1回0.001円でも、億回使われれば100万円だ。

※ SpotifyやYouTubeのストリーミングモデルに近いが、決定的に違う点がある。それらは仲介業者が利益の大半を取る。新著作権構想では仲介業者をなくし、スマートコントラクトが作者に直接支払う。
第三節

関連する法体系と必要な整備

法体系 整合性・対応 優先度
著作権法第31条
図書館等における複製
スマートコントラクトによる自動・直接払いへの移行を可能にする補完規定の追加が必要 最優先
電子署名法 ブロックチェーン署名を明示的に含める政令・ガイドラインの整備が必要
個人情報保護法 オフチェーン設計により法改正不要。即時着手可能 最優先
経済安全保障推進法 本システムを「重要技術」として内閣府の育成プログラム対象に指定することで整合
ベルヌ条約 「無方式主義」との整合性は完全に確保できる(登録は任意のため) 整合済み
WIPO著作権条約(WCT) 第11条「技術的保護措置」としてブロックチェーンを明示。日本がWIPOの国際標準策定をリードできる 中〜高

国立国会図書館への具体的提案

本提言はすでに国立国会図書館・電子情報部へ送付している。法改正を要しないフェーズ1として以下を提案している。

Phase 1
即時着手
NDLデジタルコレクションへのハッシュ付与
収録資料の一部に対するSHA-256ハッシュ付与。NDL管理のプライベートブロックチェーンへの登録。検証ツールの一般公開。現行法の範囲内で実施可能。
Phase 2
本格稼働
全資料への拡大・パブリックチェーン連携
著作権法改正後、全デジタルコレクションへの適用拡大。パブリックブロックチェーンとの連携により国際標準化を推進。
Phase 3
完全実装
スマートコントラクト対価還元の本格稼働
著作者・遺族への自動マイクロペイメント開始。絶版作品の権利処理問題を技術的に解決。WIPOへの国際標準提案。
第四節

量子コンピュータ時代への備え

現行のSHA-256ハッシュは、今日の計算機では解読に事実上無限の時間を要する。だが量子コンピュータの本格稼働が現実となる2030年代以降、この前提が崩れる可能性がある。

ポスト量子暗号への段階的移行

米国国立標準技術研究所(NIST)は2024年、量子コンピュータに耐性を持つ暗号アルゴリズムの標準化を完了した。本システムの設計思想には、将来的なポスト量子暗号への移行計画を組み込む必要がある。具体的な技術仕様については、情報処理推進機構(IPA)・産業技術総合研究所との連携により策定することが望ましい。重要なのは今から設計思想に「移行可能性」を埋め込んでおくことだ。

量子コンピュータは脅威ではなく、好機でもある。
量子耐性チェーンを世界に先駆けて実装した国が、
次世代の知財標準を握る。
日本にその機会がある。
第五節

世界への発信──日本発・新知財秩序の構築

まず概念に名前をつける

世界を変えた概念には、必ず名前があった。「インターネット」「ブロックチェーン」「オープンソース」──名前がつくことで、概念は伝播する。

この提言が目指す世界を、一言で表す名前が必要だ。提案する。

UCA──Universal Creative Attribution
(普遍的創造的帰属)

誰もが自由に使えて、意識せずに創造者に対価が届く。
知識は解放され、創造者は報われる。その両立を実現する仕組み。

発信先と役割

WIPO
国際標準化の提案。WCT第11条への明示的組み込みを日本がリード
UNESCO
文化財保護・デジタルアーカイブの国際基準との連携
国立国会図書館
Phase 1の実証実験主体。日本発の実績を国際提案の根拠に
文化庁・経産省
著作権法改正・経済安保法指定の国内推進
IPA・産総研
量子耐性暗号への移行技術仕様の策定
市民・ブロガー
SNS・ブログでの拡散。一人の声が政策を動かす第一歩

RAI国家戦略との連携

本提言は、RAI(Refined Autonomous Intelligence)国家戦略と深く連携する。RAIが「日本の精神性をロボットに宿す」ならば、UCAは「日本の知的創造物に魂を宿す」試みだ。どちらも、中国・米国とは異なる「日本型の知的インフラ」の構築という一点に向かっている。

第六節

全体ロードマップ

2026年
今すぐ
概念確立・デモ公開・NDL提言
UCAという概念名の確立。プロトタイプデモの公開(完了)。国立国会図書館・文化庁・経産省への提言書送付(完了)。ブログ・SNSでの市民への発信開始。
2027年
法整備・NDL実証実験
著作権法第31条改正の立法化。電子署名法への政令対応。NDLフェーズ1実証実験の開始。IPA・産総研との量子耐性暗号移行計画の策定。
2028年
WIPO提案・国際標準化
WIPOへのUCA国際標準提案。NDLフェーズ2の本格稼働。絶版作品の権利処理問題への対応開始。
2030年〜
量子耐性チェーンへの移行・世界展開
ポスト量子暗号への全面移行。スマートコントラクト対価還元の本格稼働。日本発UCAが国際標準として世界に普及。
デモシステム

実際に動くプロトタイプを公開中

🔗
ブロックチェーン知財保護デモ v2
作品登録タブでSHA-256ハッシュを実際に生成できます。対価還元タブではスマートコントラクトによる自動送金をシミュレートできます。法体系分析タブでは関連法律の影響分析を確認できます。ブラウザのみで動作・インストール不要。
デモを試す →
本デモは概念実証(PoC)です。実際のブロックチェーンへの書き込みは行いません。ハッシュ生成・スマートコントラクトシミュレーション・法体系分析の三機能を体験できます。

知識はもともと、誰かが命がけで生み出したものだ。研究者が何年もかけて書いた論文。画家が人生を賭けて描いた絵。詩人が深夜に書き留めた言葉。

それらがデジタル空間を無限に流通しながら、創造者には何も届かない。この不均衡を、技術で解決できる時代が来た。

知識は、解放されるべきだ。
対価も、届くべきだ。
その両立が、今、可能になった。

日本が国立国会図書館を起点にこの仕組みを世界に先駆けて実装したとき、それは単なる著作権改革ではない。日本発の新しい知的秩序が、世界に生まれる瞬間だ。