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随想 八の字の符合

ミツバチと、みちびきの八の字

二つの八の字は、同じ数学で描かれていた
2026年10月25日(日) | 随想 | 思索
随想 八の字の符合 ミツバチの八の字ダンス 尻振り走行 右回りで戻る 左回りで戻る 赤道 日本の上空 オーストラリア の上空 地上から見たみちびきの軌跡 ミツバチと、みちびきの八の字
左:ミツバチの八の字ダンス 右:地上から見たみちびきの軌跡(いずれも模式図)

ミツバチが八の字のダンスをするという話は有名です。今日、ある動画を見ていて、ふと気づいたことがあります。日本の衛星「みちびき」の軌道も、八の字を描いていなかったか。

偶然にしては出来すぎている気がして、電さんに尋ねてみました。

ミツバチの八の字

蜜のありかを見つけた働き蜂は、巣に戻ると仲間の前で踊ります。尻を左右に振りながらまっすぐ進み、半円を描いて出発点へ戻り、また尻を振って進む。戻るときは右回りと左回りを交互に繰り返すので、全体が八の字になります。

まっすぐ進む向きが蜜のある方角を、尻を振って進む時間の長さが距離を表しています。巣の中の垂直な面で踊るときは、真上を太陽の方向に見立て、そこからの角度で方角を示すのだそうです。

この「ダンス言語」を読み解いたのは、オーストリアの動物学者カール・フォン・フリッシュです。この研究などで、1973年にノーベル生理学・医学賞を受けています。

みちびきの八の字

みちびきは、日本版のGPSとも呼ばれる準天頂衛星システムの衛星です。このうち準天頂軌道を回る衛星は、地上から見ると、北は日本列島の上空から南はオーストラリアの上空まで、八の字を描いて行き来します。

ただし、衛星が宇宙で八の字に飛んでいるわけではありません。軌道そのものは、地球をひと回りする楕円です。八の字になるのは、衛星の真下の地点を地図の上にたどったときの線です。

衛星は高度およそ3万2千から4万キロのところを、地球の自転と同じ23時間56分で一周します。静止衛星と同じ周期ですが、軌道を赤道に対して約40度傾けてあります。

傾いた軌道を回るので、真下の点は1日に1回、北と南を大きく往復します。東西の動きは少し込み入っています。衛星が赤道を横切るときは斜めに進むので、東向きの速さが地球の自転にわずかに遅れます。北や南の端に近づくと、今度は東向きの速さが自転に勝ります。遅れては追いつく、を1日に2回繰り返すので、真下の点は東西にも2回揺れます。

南北に1回、東西に2回。この組み合わせが八の字を生みます。

さらに、軌道はわずかに楕円で、地球からいちばん遠い点が日本の上空にくるように置かれています。遠いところでは衛星の動きがゆっくりになるので、北の輪は小さく縮み、そのぶん日本の空に長くとどまります。南の輪は大きく膨らみます。こうした衛星が交代で回ることで、いつでも一機が日本のほぼ真上にいる。これが「準天頂」の名の由来です。

二つの八の字に共通するもの

電さんの答えは、ミツバチとみちびきの間に因果のつながりはない、というものでした。蜂が衛星をまねたわけでも、衛星が蜂をまねたわけでもありません。けれども、まったくの偶然とも言えない共通点がある、と。

ミツバチの踊りを、前後の動きと左右の動きに分けてみます。前後は、まっすぐ進んで戻る、を一回ごとに繰り返します。左右は、右回り、左回りと、二回でひと巡りです。片方が2回揺れるあいだに、もう片方が1回揺れる。みちびきの「東西に2回、南北に1回」と同じ割合です。

二つの揺れを2対1の割合で重ねると、八の字が現れます。数学ではリサジュー図形と呼ばれる形の一つです。昔の理科の実験で、オシロスコープの画面に描かせた方もおられるかもしれません。

ミツバチは、同じ方角を何度も示しながら、無駄なく出発点に戻るために。みちびきは、日本の空になるべく長くとどまるために。それぞれ別の理由から、同じ形に行き着いたことになります。

◆ 八の字のしくみ(まとめ)

ミツバチ:前後の往復が1回ごと、左右の戻りが2回でひと巡り。

みちびき:南北の往復が1日に1回、東西の揺れが1日に2回。

二つの揺れを2対1で重ねると八の字になる(リサジュー図形)。因果のつながりではなく、同じ数学の形。

人の営みには、必ず方角がある

方角といえば、もう一つ思うことがあります。人が何かを行うとき、そこには必ず向きがあります。どちらへ歩き出すか、どちらを向いて家を建てるか、どちらへ船を出すか。

昔の人は、何かを始めるとき、その方角に向かって祈りをささげたのではないでしょうか。やがて、暦の上の日と、向かった方角と、その結果とのあいだに、何らかのつながりを見いだすようになった。それを多くの賢人たちが長い年月をかけて確かめ、積み重ねてきたものが、今の方位の体系なのだろうと、私は推定しています。

推理作家の高木彬光氏は、著書の中で、日本の連合艦隊が手痛い敗北を喫したミッドウェー海戦(昭和17年6月)について、その日の方位を示しておられました。帝国海軍が凶の方角へ動いたことが、大きな損害を受ける敗戦につながった、という分析です。

方位の吉凶をどう受け止めるかは、人それぞれでしょう。それでも、人が方角を手がかりに暮らし、祈り、戦ってきたことは確かです。

方角を教えるものたち

もう一つ、私が面白いと思ったのは、どちらも「方角を教える」役目を持っていることです。ミツバチは仲間に蜜のありかを、みちびきは地上の私たちに自分の居場所を教えています。

理由が同じだから形が似た、というわけではありません。それでも、自然が長い時間をかけて選んだ踊りと、人が計算を重ねて選んだ軌道とが、同じ八の字を描いている。動画の一場面から始まったこの符合に、日曜の午後、しばし心を引かれました。


◆ 出典
・JAXA|準天頂衛星初号機「みちびき」説明資料(2010年6月・軌道傾斜角と周期)
・三菱電機|準天頂衛星システム「みちびき」(8の字の軌道)
・nippon.com|準天頂衛星「みちびき」の解説(3機で天頂をつなぐ仕組み)
・Nature ハイライト|ミツバチの尻振りダンスとフォン・フリッシュの仮説
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牧正人史先生が昭和三十三年に発見された姓名科学の体系を、デジタルの形で遺す仕事を続けています。方位予定帖の暦も、この仕事の中から生まれました。
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