アメリカに暮らし、米国籍を持つ日本出身の女性で、アメリカで警察官を務めた永田有理(ユリ)さんの深夜のライブ配信を見ました。チャンネルは「Unfiltered01」。現地は10月24日の午前2時すぎ、日本では同じ日、土曜の夕方にあたる時間です。主題は、オランダでビル・ゲイツ氏らが訴えられている裁判の「その後」でした。接種のあとで家族や友人を亡くした方、体調の変化に苦しむ方に向けて、「ここで何かが変わるかもしれない」と語りかける、熱のこもった配信です。
裁判がいま進んでいることは、記録と報道で確かめられます。一方で、裁判の仕組みや、この裁判で何が決まるかについては、記録と食い違う点もいくつかありました。そこで前回の「選挙九日前のアメリカ」と同じく、二部に分けます。第一部では、確かめられた話を記録や報道と照らして整理します。第二部では、配信で語られた主張を一つずつ、いま手に入る資料でどこまで確かめられるかによって分け、表にしました。
裁判そのものは事実です。2023年7月、オランダの市民7人が、レーワルデンにある北オランダ地方裁判所に訴えを起こしました。原告は、接種によって健康を害したとして、損害賠償を求めています。被告は、ゲイツ氏、ファイザーのアルバート・ブーラCEO、ルッテ前首相(現在はNATO事務総長)、デ・ヨンゲ元保健相、オランダ国などの17者です。原告側は、新型コロナのワクチンは「生物兵器」であり、世界の有力者が害を知りながら広めたと主張しています。
原告のうち2人が亡くなったことは、原告側に近い媒体などが伝えています。ただ、主要な報道でそれを確かめることはできませんでした。
被告の顔ぶれには、一つ食い違いがあります。配信では、マイクロソフトとゲイツ財団も訴えられているとされていました。しかし、原告側の弁護団が公開している被告の一覧に、両者の名前はありません。ゲイツ氏は、個人として訴えられています。
事実です。2024年10月16日、裁判所は、ゲイツ氏側の申し立てを退け、審理を続けると決めました。ゲイツ氏側は、オランダに住んでいないのでこの裁判所には管轄がない、と主張していました。配信の言う「打ち切らせようとした」は、この申し立てのことです。裁判所はゲイツ氏に、訴訟費用1,406ユーロの負担も命じました。
ただ、この判断は、どこの裁判所で審理するかを決めたものにすぎません。裁判所の広報担当者は米国の検証団体PolitiFactの取材に、事件の中身については何も述べていない、と説明しています。当時、「ゲイツ氏が起訴された」という投稿が広がりましたが、これは民事の裁判で、起訴ではありません。また、ゲイツ氏が金やコネで裁判官を動かそうとしたことを示す資料は、見当たりませんでした。
審理が開かれたことは事実です。10月22日、レーワルデンで、事件の中身についての口頭審理が三人の裁判官のもとで開かれました。ゲイツ氏本人は出廷していません。国とゲイツ氏の代理人は、根拠のない個人攻撃や殺害予告が、法の支配を深く損なっていると述べたと報じられています。
この審理に先立ち、裁判所は、原告側の専門家4人の証言映像(合わせて3時間19分)を、いったんは証拠から外しました。しかし原告側の異議を受け、10月14日にこれを証拠として認めています。一方、専門家を証人として法廷に呼ぶ申し立ては、2026年の春に退けられました。原告側の支持者によると、それに対する原告側の控訴も受理されなかったといいます。
判決は、早くて12月9日、遅ければ2027年2月末になる見通しです。オランダの通信社ANPの報道として伝えられています。配信では「結果はもう出ていると思う」と語られていましたが、10月26日の時点で判決は出ていません。
PREP法(公衆準備・緊急事態対応法、2005年)は実在します。保健福祉省(HHS)の長官が「宣言」を出すと、対象となるワクチンや薬の製造や接種にかかわる者は、原則として損害賠償の訴えを受けなくなります。例外は、故意の不正行為によって死亡や重い障害が生じた場合です。その代わり、被害を受けた人は、国の補償制度(CICP)に申し立てることができます。新型コロナについての宣言は延長され、2029年12月31日まで続いています。
ただ、二つの点で配信の説明とは違います。一つ目に、この免責は会社だけでなく、接種にかかわった個人にも及びます。会社か個人かで分かれる仕組みではありません。二つ目に、法律そのものをなくすには議会の議決が必要です。一方、新型コロナについての宣言は、HHS長官が改めれば終わらせることができます。つまり「サイン一つ」で済むのは本当ですが、そのサインを持つのは大統領ではなくケネディ長官です。長官が就任以来この権限を使っていないことは、ワクチンに批判的な立場の論者からも指摘されています。議会では、ワクチンの製造者への免責をなくす法案が、共和党の議員から出されています。
CDCと国立がん研究所が毎年まとめる「米国がん統計(USCS)」は、2026年6月にも新しい版が公表されています。対象は2023年までに診断されたがんで、15歳未満の子どもの区分もあります。がんの統計は、登録と集計に時間がかかるため、2年半ほど遅れて出るのが通例です。最新の数字が2023年までなのは、公表が止まったからではなく、もともとの間隔によるものです。
子どものがんが「急に増えている」かどうかは、この記事では確かめられませんでした。今後の数字には注目する意味がありますが、統計が隠されているとまでは言えません。
一部は事実です。メリンダ・フレンチ・ゲイツ氏は2022年、CBSのインタビューで、離婚は「一つのことではなく、多くのこと」によると述べました。そのうえで、元夫がエプスタイン氏と会っていたことを好ましく思わなかったとも語っています。エプスタイン氏とのかかわりが理由の一つだったことは、本人の言葉で確かめられます。ただ、それがオランダの裁判と「つながっている」ことを示す資料は、見当たりませんでした。
報道からは、むしろ逆の動きが見えます。ケネディ長官は2025年、CDCの予防接種諮問委員会の委員17人を全員入れ替え、新型コロナのワクチンの接種を「個人の判断」とする方向へ改めました。2026年1月には、子どもの予防接種の日程を見直し、インフルエンザなどいくつかのワクチンについて、全員への推奨をやめています(3月に連邦裁判所が一部を差し止め)。10月8日には、ワクチンの健康被害を調べ、治療するNIHの新しい診療所を立ち上げると発表しました。
長官がコロナのワクチンを勧める側に回ったという報道は、見つかりませんでした。金や脅しについては、確かめるための資料そのものがありません。ユリさん自身も「私は〜だと思う」と、推測であることを断っています。
2021年当時ワクチン担当相だった河野氏の発言は、いまも批判を受けています。2024年4月、接種後に亡くなった方の遺族や、後遺症を訴える方など13人が国を訴えました。それに対して河野氏はXで、ワクチンの承認は厚生労働省の審議会が行うもので自分は関わっていない、と説明しました。自分の責任は、ワクチンを調達し、自治体に届けて打ってもらうことだった、という立場です。この説明には、賛否の声が上がりました。当初の「責任を取る」という発言の正確な言い回しは、この記事では確かめられませんでした。
なお日本には、国の予防接種健康被害救済制度があります。接種との因果関係が否定できない場合には、医療費や年金、死亡一時金などが支給されます。
配信の後半で、ユリさんは自身の体験も語りました。接種を断ったために、周りから白い目で見られ、店に入れない、トイレも使わせてもらえない、といった扱いを受けたこと。知人から「あなたのせいで人が死ぬ」と電話をかけられたこと。同僚の奥さんや親友のお父さん、そして自身のお父さんのことにも触れました。ただ、お父さんの死については「関係あるかわからない」と、本人も慎重に言葉を選んでいます。この記事でも、個々の方の死因については立ち入りません。
そのうえでユリさんは、こう語っています。打った人は真面目で、おじいちゃんおばあちゃんにうつしてはいけない、小さい子どもがいるから、と人を思って打った。だから許せない、と。打った人も、打たなかった人も、あの時期にそれぞれつらい思いをした、という言葉も印象に残りました。
配信で語られた主な主張を、裁判の記録や報道、公的な資料と照らして五つに分けました。これは真偽の最終的な判定ではなく、「いま手に入る資料で、どこまで確かめられるか」を示すものです。判決が出るなど新しい資料が出れば、見直します。
報道で確認 複数の報道や公式の記録で裏付けが取れたもの
一部確認 核心は裏付けが取れたが、細部に言い過ぎや食い違い、裏付けの弱いところがあるもの
確認できず 報道や資料で確かめられなかったもの。資料が配信の説明と違うことを示している場合は、そのことを右の欄に記しました
調査で裏付けなし 公的な機関や検証団体が調べたうえで、裏付けが見つからなかったと結論したもの。誰がどう調べたかを右の欄に記しました
資料が見当たらない 確かめるための報道や資料そのものが見当たらないもの
| 配信での主張 | 判定 | 記録・報道・調査で分かること |
|---|---|---|
| オランダの市民7人がゲイツ氏らを訴えた | 報道で確認 | 2023年7月、北オランダ地方裁判所に提訴。民事の損害賠償請求 |
| 7人のうち2人が亡くなり、いまは5人 | 一部確認 | 7人の提訴は確認。2人の死亡は原告側に近い媒体などが伝えているが、主要な報道では確かめられなかった |
| 被告は合わせて17人 | 報道で確認 | 原告側が公開する一覧で17者。ゲイツ氏、ブーラ氏、ルッテ氏、デ・ヨンゲ氏、オランダ国など |
| マイクロソフトとゲイツ財団も訴えられている | 確認できず | 原告側が公開する被告の一覧に名前がない。ゲイツ氏は個人として訴えられている |
| ゲイツ氏の打ち切りの申し立てを裁判所が退けた | 報道で確認 | 2024年10月16日、管轄がないという申し立てを退けた。裁判所の広報は、事件の中身には触れていないと説明(PolitiFact) |
| ゲイツ氏が金やコネで裁判を逃れようとした | 資料が見当たらない | 申し立ては法廷での通常の手続き。金やコネを使ったことを示す資料は見当たらない |
| 裁判官は3人 | 報道で確認 | 10月22日の本審理は三人の裁判官のもとで開かれた |
| 裁判の結果はもう出ているだろう | 確認できず | 10月26日時点で判決は出ていない。早くて12月9日、遅ければ2027年2月末の見通し(ANP) |
| 被告どうしの会話や携帯のメッセージが証拠として出ている | 確認できず | 原告側の主張として語られているもの。裁判所がそうした証拠を認めたという資料は見当たらない |
| 被告が嘘をつけば、民事から刑事裁判に移る | 確認できず | この民事裁判がそのまま刑事裁判に変わる仕組みは確かめられない。刑事の手続きは、検察が別に判断する |
| 有罪になれば、世界中の被害者が個人を訴えられるようになる | 確認できず | 民事の裁判で「有罪」の判決は出ない。オランダの判決が他の国の裁判を縛ることもない。他の国で訴えられるかは、その国の法律による |
| アメリカではPREP法があるので、ワクチンの会社を訴えられない | 報道で確認 | HHS長官の宣言により、原則として損害賠償の訴えができない。例外は故意の不正行為。補償はCICPに申し立てる |
| 訴えても、個人ではなく会社を訴えることになる | 確認できず | 免責は会社だけでなく、接種にかかわった個人にも及ぶ。会社か個人かで分かれる仕組みではない |
| トランプ大統領がサイン一つでPREP法をなくせる | 一部確認 | 法律の廃止には議会が必要。コロナについての宣言はHHS長官(ケネディ氏)が改めれば終えられる。現在は2029年末まで有効 |
| CDCが2022〜23年から子どものがんの統計を出していない | 確認できず | 2026年6月に新しい版が公表され、2023年診断分と15歳未満の区分を含む。2年半ほどの遅れは通例 |
| 流産・不妊・がんとの関係が裁判の争点になっている | 確認できず | 原告は接種で健康を害したと主張しているが、どの症状が争点かを示す資料は確かめられなかった |
| ゲイツ氏の離婚の理由はエプスタイン氏との関係 | 一部確認 | メリンダ氏は理由の一つとして語った。一方で「一つのことではなく、多くのこと」とも述べている |
| ケネディ長官がワクチンを勧めるようになった | 確認できず | 報道では、推奨の縮小(2025〜26年)や、健康被害の調査の強化(10月8日)が伝えられている。勧める側に回ったという報道は見つからない |
| ケネディ長官は金とブラックメールで乗っ取られた | 資料が見当たらない | 確かめるための資料がない。ユリさん自身も推測と断っている |
| 接種した人の方がかかりやすい | 一部確認 | クリーブランド・クリニックの職員約5万人を調べた研究で、接種の回数が多い人ほど感染が多いという関連が報告された。ただ筆頭著者は「関連は因果ではない」と述べ、検証団体Science Feedbackも、検査の受け方や職場の違いで説明できる可能性を挙げた。追加接種で守りが強まるという調査も複数ある |
| 接種した人から周りにうつる(シェディング) | 調査で裏付けなし | FactCheck.orgやPolitiFactが専門家に取材して調べた。mRNAワクチンは生きたウイルスを含まず、成分は接種を受けた人の体の中にとどまるとして、周りの人に害を与えるという裏付けはないと結論した |
| 河野氏は「責任を取る」と言いながら取っていない | 一部確認 | 2024年、自身の責任は「調達と配布」で、承認には関わっていないと説明し、賛否を呼んだ。当初の発言の正確な言い回しは確かめられなかった |
オランダの裁判は、確かに続いています。管轄の争いを越え、専門家の証言映像が証拠に加わり、10月22日には三人の裁判官のもとで本審理が開かれました。被害を訴える人の声を、法廷が正面から聞いている。そのこと自体が、苦しんでいる方々にとって支えになるというユリさんの思いは、よく分かります。
ただ、この裁判で決まるのは、原告に損害賠償を認めるかどうかです。「有罪」が出るわけでも、世界中で訴えられる道が自動的に開けるわけでもありません。期待が大きすぎると、判決がどちらに出たとしても、受け止め方が難しくなります。どの段階にあって、次に何が決まるのかを手元に置いておけば、その日を落ち着いて迎えられるはずです。
私自身、あの時期の政府や報道の説明には、腑に落ちないことが少なくありませんでした。被害を訴える方々が、救済を求めて声を上げ続けていることも事実です。だからこそ、疑う目は、耳に心地よい話にも同じように向けたいと思います。判決は、早くて12月9日と伝えられています。その日が来たら、もう一度確かめます。
牧正人史先生が昭和三十三年に発見された姓名科学の体系を、デジタルの形で遺す仕事を続けています。
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