おてんとうさまの下で記録 / 本文

百パーセント

――大谷翔平選手の休養をめぐって(七)
2026年9月20日論考スポーツ

第一稿:休むことは、弱さではない(9月3日)
第二稿:四日間で足りたのか(9月7日)
第三稿:出所のない物語(9月8日)
第四稿:まだ、休ませてよい(9月8日)
第五稿:缶を蹴り続けた(9月10日)
第六稿:十五日間(9月18日)

戻ってきそうです。

一、何が行われたか

現地十九日、日本時間二十日。本拠地でのジャイアンツ戦の日です。

大谷選手は、負傷者リストに入ってから初めてグラウンドに出ました。

この日、行われたこと
チームの打撃練習中に、約八分間のベースランニング。
室内のケージで、大リーグの投手と同じ球を再現できる高性能の打撃機械「トラジェクトマシン」を相手に打撃練習。
投手の等身大の映像を使う「トラジェクトアーク」も併用。三十から四十スイングほど。
打撃後の状態にも問題なし。

試合はドジャースが十対四で勝ちました。

会見でのロバーツ監督は、上機嫌に見えました。打線が六イニング連続で得点したのは、監督一年目以来だそうです。その話から始まって、大谷選手の話になりました。

素晴らしかった、と二度繰り返し、こう続けています。走る姿を見ていて、脚を使えているように見えたし、力強い印象だった。だから次のシリーズで彼を見られる可能性は十分にある、と。

二、復帰は、最短で二十四日

日程を整理しておきます。

復帰までの日取り
九月八日にさかのぼって、十五日間の負傷者リスト入り。
最短の復帰は、現地二十三日(日本時間二十四日)。
パドレス三連戦は現地二十二日から二十四日(同二十三日から二十五日)。二戦目以降なら出場が可能。
レギュラーシーズンの残りは、出られても最大で五試合。

五試合です。

百六十二試合の長いシーズンで、最後に残されたのが五試合。そのあとは、すぐに十月が始まります。

三、「百パーセント」という言葉

ここからが、今日いちばん書きたいことです。

アーロン・ベイツ打撃コーチが、取材に応じてこう語っています。

彼の状態はとてもよい。ベースランニングを見ても分かるだろう。今のところすべて順調だ。そして、こう続けました。

強度で言えば、百パーセントの状態だ。

さらに、別の報道ではこう伝えられています。負傷者リストに入る前よりも、はるかに不安なく振っていた、と。

私は、この一言で手が止まりました。

四、休む前より、良くなっている

考えてみてください。

十二日間、試合から離れていました。打席にも立たず、投げもせず、遠征にも同行しなかった。普通に考えれば、感覚は鈍っているはずです。

ところが、コーチの見立ては逆でした。離脱前よりも、不安なく振れている、と。

これは、私がこの連載で六回にわたって書いてきたことの、答えにあたると思います。

第一稿で、休むべきだと書きました。第四稿では、まだ休ませてよいと書きました。そのたびに、休めば取り返しがつかなくなるのではないか、という声も目にしました。実際には、休んだことで良くなっているのです。

休むことは、失うことではありませんでした。

膝をかばい、注射を打ちながら打席に立っていた頃、振るたびにどこかが痛んでいたはずです。痛みを避けようとすれば、思い切って振れません。不安なく振れないという状態が、ずっと続いていた。

休んだことで、その不安が消えた。だから百パーセントで振れる。

理屈にしてみれば、当たり前の話です。ただ、その当たり前が、九月の頭には通らなかったのです。

五、五試合を、どう使うか

とはいえ、手放しで喜んでよいとも思っていません。

残りは五試合です。そして、その先には十月があります。

五試合をどう使うかで、二通りの考え方が成り立ちます。

一つは、実戦の感覚を取り戻すために、できるだけ出す。 打席勘は打席でしか戻りません。十二日も離れていたのですから、機械相手の練習だけでは足りない、という見方です。

もう一つは、最小限にとどめる。 せっかく引いた炎症を、また悪化させては元も子もない。順位はもう決まっているのですから、無理をする理由がない、という見方です。

私は、後者に近いところにいます。

ただ、前者の理屈も分かります。打席勘は、休んでいては戻らない。 そこは機械では代われません。

ですから、こう思っています。五試合すべてに出る必要はないが、二試合か三試合は立ったほうがよい。 そして、その間に少しでも違和感が出たら、ためらわずに下げる。

幸いなことに、監督は今回、先回りを覚えたようです。第五稿で書いたように、缶を蹴るのをやめると自分で言いました。

六、それでも、見るのは成績ではない

復帰したら、必ず数字の話になります。

何打数何安打だったか。三十一号は出たか。出なければ、まだ本調子ではないと書かれるでしょう。

けれど、見るべきはそこではないと思っています。

翌朝、体がどうか。 これに尽きます。

打っても打たなくても、翌日に腕や膝や首が痛まなければ、それが成功です。逆に本塁打を打った翌朝に痛みが出たなら、それは失敗です。

ベイツコーチの言葉で、私がいちばん重く受け取ったのは「百パーセント」ではなく、「不安なく」のほうでした。

数字は、あとからついてきます。不安なく振れる体があれば。

結び

七回にわたって、同じことを書いてきました。

休んでほしい。痛みが出てから休むのでは遅い。休むことは弱さではない。十年見ていたいから、今日休んでほしい。

そして今、休んだ人が戻ってこようとしています。休む前より良い状態で。

この連載で書いてきたことの、ひとまずの答えが出たように思います。

もっとも、本当の答えは十月に出ます。あの五試合と、その先のポストシーズンを、どういう体で戦えるか。そこまで見届けなければ、何も言えません。

十月に、あの本来のスイングを見せていただきたい。七回とも、願いは同じです。

※本稿は、令和八年九月二十日までの報道およびロバーツ監督、ベイツ打撃コーチの発言に基づいて記しています。選手の健康状態について、報道された範囲を超える推測は行っていません。第五節の見方は制作者個人のものです。
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